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Channel: 舞姫たちへの片恋文
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【3周年企画】いま読み解く「浅草2012-13」 その15「Neverland」その3

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 「浅草」のこの1年の公演を改めて振り返りながら、その読み解きとステージの裏側に迫るインタビューシリーズ。15回目は3月結~4月結の「Neverland」、異例の「その3」に突入しました。
 
 5景の謎の映画鑑賞から、いすを使った珍しい群舞についてお話を伺っていきましょう。
 

■■■■ 「ついに『レポ屋』登場でしたね」 ■■■■
名無 その後、中休憩を挟んで、いよいよ謎の5景、映画館からいすで転がる景です。
酒井 あー、はーい。
名無 この景、テーマはなんだったんですか。
酒井 あれは、資料がもともとありました、例のサーカスで。
名無 えっ!映像をみんなで観ていて、そこから展開するというモチーフの作品があるんですか。
酒井 そう、映画をみんなで観ていて、その客席の情景から始まるという資料があった。それを観て「この雰囲気でお願いします」と言われたんです。
名無 映画館では、かなりインチキな映画が流れて。でも、その中の特撮にはびっくりしました。すごいクオリティでしたね。私、これは借りるんじゃなくて買った方がいいかなと思って、MJの「THIS IS IT」、買ったんですよ。
酒井 そうですか、ついに。
名無 ついに。DVD買うなんて何年ぶりだろうという感じだったんですけれども。観たら、「これかー」と。このクオリティを作ったんだぁ、すごいなぁと思いました。
酒井 すごいよねぇ。
名無 だって、かたや世界のMJで、世界的な凄腕のスタッフが集まって作ったプロモーションビデオ。一方こちらは、たった1人がMacでコツコツ…という。
酒井 あのシーン、大好きだったなぁ。
名無 そして、その映画が終わった後の、客席の小競り合い、また余計なことをいろいろと(笑)。
酒井 はははは。そうだ。ついに「レポ屋」登場でしたね。
名無 ありがとうございました(笑)。「あれーっ?何か親近感があるぞー」と思ったんですよね。
酒井 「一生懸命、メモ取れ」とか言って。私、名無しさんから聞いたんですよね。メモしているうちにボールペンのインクがなくなったという話。
名無 そうですね。暗転中に書いていたらインクが切れていて、メモはひっかき傷だったという。
酒井 その話を思い出して、「あっ、使わせて頂こう」と思って。
名無 あのシーンで非常に共感を持ったのが、後ろからのぞき込む人を追い払う場面です。メモしているところを見られるのは、なんだか恥ずかしいんですよね。
酒井 わかります、わかります。
名無 そこまで再現して頂いて…ありがとうございました(笑)。
酒井 ダンサーには「覗いて」って言って。
名無 たぶん観客の9割5分の方には、何が何だかわからなかったと思いますが。
酒井 そうかなぁ。
名無 わからないと思いますよ。何を一生懸命メモしてるんだろうと。「レポ屋業界」としては感謝状贈呈、という感じでございました。
酒井 ははは、しかも、灘とまっちゃん(松嶋れいな)ですからね。
名無 公演後に灘ジュンさんと松嶋れいなさんにお礼を申し上げに行きました。松嶋れいなさんは、いまいち意味がお分かりになっていなかったようで。「ありがとうございました。レポ屋やって頂いて」って言ったら、「は?」みたいな感じで。
酒井 そうか、振り移しだったからね。
 

■■■■ 「いすの群舞は本当にギリギリでした」 ■■■■
名無 この景の衣装は、最初は布に描かれたスーツ、その後、布を外すと、軍服のような衣装が出てきました。
酒井 なんか、闘うイメージにしていきたかったんです。資料にしたサーカス集団の出し物では映画館の後、すごいテクニックのリフトを繰り返す、男女の大リフト大会の踊りになっていくんです。そしてその後、サーカスに展開していく。
名無 はーっ。
酒井 セクシーでもあり、闘う雰囲気も出す。せっかくキャスター付きのいすを使えるので、だとしたらかっこいい衣装だよね、という話になって。
名無 キャスター付きのいすというのも、原作に乗っ取ったんですか。
酒井 そうです。
名無 原作でも、ああいう展開があるんですね。
酒井 ここまではやってないです。ハケに使ってるだけ。あんなに使い切ってはいないです。
名無 あのフォーメーション、すごかったですね。
酒井 場当たりが大変だった。みんな、本当に最後まであきらめないで付き合ってくれて。どうしても安全を優先したいんで、「ここのコースは無理なんじゃない、止めようか」みたいなところも、ダンサーが「ここは、ここの子が先に行けば行けるんじゃない」みたいなことを言ってくれたりして。だからあきらめないで済んだ。ギリギリです、本当に。
名無 「バーン」とかなりの勢いで走り抜けていきますものね。ちょっと間違ってドーンと当たったりしたら大変なことになりかねない。ものすごい緻密な設計のもとに成り立ったシーンですよね。
酒井 本当に頑張ってくれた。どんどん慣れていってうまくなっていきましたからね。「先生、すっかりみんな慣れてうまくなりましたぁ」って言ってくれた。
 

■■■■ 「私が何言っても『はいはい』って踊ってくれる」 ■■■■
名無 元ネタではハケで使うだけだったものを、あれだけ使い倒してみようというのは。
酒井 男性ダンサーがいるわけじゃないから、リフトなんてできないじゃないですか。だったらここから展開して、いすでの踊りにしようよという話を打ち合わせの中でしました。
名無 いすが微妙に肘掛けの形が違っていて、一生懸命集めてきたんだなぁと思いながら観てました。
酒井 はははは、バレてたか。
名無 こういうのも一種の群舞ですよね。こんな作り方もあるんだなぁ、と目からウロコでした。
酒井 私も作ってて「こんなの観たことないなぁ」と思いました。
名無 音楽ともうまく合っていて、軽いタッチで、だけど激しく交錯する感じもあって。
酒井 曲が展開しているんですよね。音も私を燃えさせましたね。絶対に引かないでやり切るべきだと思わされた。
名無 原作があるというので「なるほど」と思う部分もありますけれど、そこから原作を越える部分を必ず仕込んでくるんですね。
酒井 だって原作みたいな感じでいいんだったら、普通に完パク、完全パクリすればいいわけですよね。そうじゃなくて、ここでしかできないことをやらないと意味がない、価値がない、パワーが生まれない。いま出来ることを精一杯やるんだって。でも、好きだったのはモグラ叩き。
名無 モグラ叩き?
酒井 すごい好きだった。あちこちでピョコンピョコンって飛び上がったじゃないですか。
名無 はいはいはい。なんだったんですか、あれ?
酒井 あれは、音がそういう音だったので、「モグラ叩きだー」と思って、ああやって作っちゃった。ははは。ここだけ変な音だったんだもん。
名無 音が変だと、「モグラ叩き」になるんですか?(笑)
酒井 あそこは、みんながあちこちで飛び出す「モグラ叩き」の音がしたので。ノートにも「モグラ叩き」って書いてある。
名無 書いてありますねー。でも、それ以上の意味はない、ということですか。
酒井 ない。
名無 「映画観てびっくらこいた」とかいう意味を乗せたわけでもなく。
酒井 もちろん、それぞれが何かに反応すると思って演ってくれても構わないんですけど。
名無 その反応の理由は付けていないわけですね。
酒井 はい、任せています。
名無 どんな気持ちで飛び出すかは別だけど、基本は「モグラ叩き」ですと。
酒井 朝に「ここはモグラ叩きです」って言った。
名無 それ、演者のみなさん、「ポカーン」ってなりませんか?
酒井 ううん、もうみんな慣れてるから。私が何言ったって、「はいはい」って踊ってくれる。
名無 「はいはい、出ました出ました」みたいな(笑)。
酒井 「言うんだったらやりますよー、はいはい」って踊ってくれる。ありがたいなー。
名無 演者のみなさんもすごいですね。その受け方というか、受けて立つというか。
酒井 本当にもう、どんだけありがたいかわかんないですよ。やってくれるんですよね。今まで「ヤダ」って言った人いな…いや、いた。水野(美香)、水野だけだ。ははは。
名無 まぁ、あの方はそうじゃないと「らしく」ないですよね(笑)。
 

■■■■ 注目の「ムーンウォーク大会」の裏には… ■■■■
名無 そしてフィナーレ。やはりMJだけに「ムーンウォーク」。これがなかなか見物でしたね。初日から出来ている方、笑ってごまかしている方。
酒井 私自身も家で練習しましたからね。
名無 あれは「ムーンウォーク大会をやろう」という発注があったんですか?
酒井 「もう、そろそろやるしかない」って私が観念した。ここまでMJ使うんだったら逃げらない、だったらはっきりわかりやすくやろうって、滑る板を仕込んで。
名無 あれ、奥に専用のレーンを作っていたんですか。
酒井 そうです。前ツラだとワゴンのレールが引っ掛かるし、後ろはワゴンの本体があるから、一番後ろにアクリル板のような滑る物を敷いてやったらなんとかなるかもと思って、買ってもらって毎日磨いてもらった。
名無 へぇー!それをフィナーレの前、7景の時に敷いた。
酒井 ベッド中にスタンバッたんじゃないかな。シューズと床の関係はものすごく大事なんです。例えば回転ものが多い振りの時は、ちょっと滑りのいい靴を履いたり。床のリノリウムにも、滑りのいいやつと悪いやつがあるんですよ。それによってシューズを変えたり、ダンサーは床とシューズの関係にすごい気をつけています。
名無 ちなみに「浅草」の床は。
酒井 滑りがいい方です。
名無 それはスモークの関係で、滑りがよくなっている?
酒井 それもあるかもしれないけれど、もともと滑りやすいリノリウムです。
名無 材質的に。
酒井 はい、引っ掛からない。だからバレーシューズで踊るのは実は大変です。
名無 ツルッツルな感じですか。
酒井 ツルツルです。でも、裸足で踊るのは、ポールの金具とレールがあるので危ない。ヒールやジャズブーツも、裏にゴムを貼ったりします。振りにもよるんですけれど、シューズのチョイスは難しい。なので、ムーンウォークは床を合わせるしかなかったです。
名無 その手前までの動きもあるからですね。ムーンウォーク用に滑りをよくしてしまうと、その手前が合わせられない。
酒井 大変なことになる。
名無 床がそうなっているとは知りませんでした。
酒井 見えないですからね。投光ブースに行かないとあそこは見えないです。
名無 YouTubeを見たら、「ムーンウォークのやり方講座」というのが載っていましたが、あれはみなさんに。
酒井 見て、といいました。
名無 一斉に練習はしたんですか。それとも各自で。
酒井 とりあえず「みんな、見てやってきてね」と言って、振付の朝にみんなでスリッパとか履いてやりました。滑るから、感覚を覚えるにはスリッパで練習するのが一番いいんです。私、家でスリッパを履いて練習しました、ははは。
名無 「ムーンウォーク大会」は注目の的でしたからね。
酒井 まぁ、振りの中にポイントで入れるよりも、思い切りやっちゃった方がいいと思ったんです。出来る子、出来ない子、絶対差があるんで、だったら潔く全員並んでやってしまえって。今まで何度もMJの曲を使ってきたのに入れようがなかったので、今回は私は潔くやりました。
名無 20日間の中でも上げてくる方と、20日間たっても笑ってごまかす方、いろいろでしたね。
酒井 たまちゃんとさなみがうまかったなぁー。
名無 ダンサーさんはレベルが高かったですね。そりゃ当然だとは思いつつも。
酒井 ダンサーの中でも、たまとさなみはうまかった、秀逸でしたね。だからあの列のトリにしたんですよ。
名無 本当に、演者のみなさんにとってはすべてが挑戦ですね。
酒井 そうですね。

(続く)
 
(一部敬称略・インタビュー日:平成25年9月28日(土))

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